Category Archives: Life

ライフカードとソーシャルエンジニアリング

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ライフカードに問題を理解してもらえなかった話(以下、とくにメモを取っていなかった前半は、細かい言い回しが少し違っているかもしれない)

仕事中、席に戻って携帯を見たら留守電が入っていた。聞いてみると、クレジットカード会社からで、連絡くださいとのこと。なにかトラブルかと思ってあわててそのフリーダイアルの番号に電話をかける。名字を言って「電話をいただいたようなのですが」というと、下の名前と誕生日と電話番号を聞かれたので答えた。はいここテストに出ます。で、肝心の話は、というとおまとめローンの勧誘ということで、もうその言葉が始まったとたんに思わず私は「営業ですか(嘆息)」と漏らしてしまう。仕事中だぞこっちは。こちらの様子を察したのか「興味ないです」と一言言うと、すぐに引き下がった。

が、ちょっと待て。さっきの本当にカード会社か?

どこの誰かもわからないフリーダイアルに、私は本名と誕生日と電話番号を伝えてしまったのかと思って焦る。実は少し前にカード会社とのやりとりがあったり、ちょうど巧妙なスキミングの注意を見たこともあって、どんどん不安になる。フリーダイアルの番号を検索すると「カード会社の勧誘だから無視しろ」というようなページが見つかったが、念のため確認することにする。Webでカード会社の問い合わせ番号を調べて、そこに電話した。

最初にカード事故/紛失要件などとフィルタされて、しばらく待たされたら担当のオペレータの方が出た。要件(フリーダイアルの番号が正当なものか)を言うと、答える前にこちらの同定のための質問をされる。質問は、カード番号、誕生日、フルネームと登録している電話番号だった。はい、ここもテストに出ます。すると、カード会社から電話をかけた時間と、こちらがコールバックした時間を言われて、間違いないものです、と教えてくれた。

どうでしょう。

水曜どうでしょう。

よく、銀行やATMの場所に「行員が銀行の外や電話で、カード番号や暗唱番号を聞くことはありません」とあるが、この場合、カード会社が個人の同定に使う情報を、自分自身の営業電話で聞き出しているのだ。つまり、今回は大丈夫だったが、この相手が悪意のある者だったら営業電話とまったく同じ質問で簡単に個人同定のための情報を取得できてしまうことになる。ユーザはそれが悪意があるものかカード会社か区別はできない。

ということで、そのオペレータの方に、個人同定のために使うフルネームと誕生日と電話番号を営業電話で聞くのは納得できないので、改善してくれないでしょうか、と言うと、上の者に伝えておきます、と答えた。悪いくせなんですけど、流されたら困るなと思って、ここでまるで仕事みたいに「伝えた結果、どう改善したかを連絡してください」と言ってしまう。オペレータさんには申しわけないことをした。

もちろんオペレータの方はそんなコミットをする権限はないだろうから「上の者に変わります」と言ってかなり待たされてインフォメーションセンターの責任者という人に変わった。この方の説明によると、カード会社から電話をかけた場合は、あらためて同定情報を聞くことはないが、客から電話がかかってきた場合は確認するとのことだ。でもこの手順を、営業の留守電へのコールバックで行うと、そのときお客さんは誰かわからない相手に同定情報を言っていることになる。

ということで、私は営業電話のこの手順を変えられませんか、と伝えた。ところが、この私が疑問を持っている内容をこの担当者がなかなか理解してくれない。営業マンが、コールバックの電話に対して暗証番号を聞いたり、母親の名前を聞いたり、昔買っていたペットの名前を聞いているのと同じことなのに。

その場で私も考えたが、手順を変えるのは簡単で、コールバックされたら、いったん切って、またその相手の電話番号にかけ直せばいいだけだ。そうすればユーザは不明な相手に個人同定情報を伝える前例をつくることなく、カード会社も営業活動が行える。しかし、これも相手はどうも理解していない感じだ。私、説明下手だからな。やりとりをするうち、向こうの慇懃無礼な感じに腹も立ってきた。こちらは窓口になりますのでわかりません、って窓口だから分かる人に伝えて欲しい、みたいな。ただ、これは双方熱くなる感じがあったのでこちらも悪かったかもしれない。申しわけないことをした。でも、電話のあと、冷静になってから考えてみてもやっぱり

  • コールバック電話には、もう一度かける手順にして(同定情報は気軽に聞かないで)
  • 同定情報を聞くまえに、営業電話と言って(カード会社からの電話は焦るので)
  • 営業電話で留守電を入れるときは、要件を言ってほしいな(これはwant)

と思った。ユーザとして気をつける点は、

  • カード会社を名乗っていても気軽に同定情報を伝えない
  • 同定情報を聞かれたら、まず要件を聞く
  • 陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない

ということだ。たかが誕生日や電話番号に神経質になりすぎかなーともちょっと思ってるけど、高木浩光さんはJavaHouse Brewers ML時代に親切にされたことがあってよく読んでいるのでどうしても気になってしまうのだ。

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スナフキン、ドラゴン、ペ・ヨンジュン、その他の短編

からっぽの世界

金麦のCMが実は暴力夫のDVで意識不明の重体になってしまった気の毒な女性の妄想を映像化した説とかそういうのを聞いたことある。ひどい話だけども、それをどこかで読んでから、あのCMが怖くて仕方ない。

私の父は倒れてから一ヶ月くらいで亡くなった。人工呼吸器でつながれたあの一ヶ月で父はなにか走馬燈のようなものを見ただろうか、とずっと気になっている。下の子は北海道で生まれたばかりで見舞いにこれなかったので、写真をベッドの横に貼っておいた。父は一瞬でも意識の端で最後の孫の顔を見ただろうか。

ムーミン谷の話。

スナフキンは旅人という設定だけど、実際はいつも近所の川にいる。あれは旅人というのはスナフキンの妄想で、でもムーミン谷の人々は優しいからその妄想を壊さないでいてあげているのだ。

当然、釣り針には一度も魚はかかったことはない。でもムーミン谷の人たちは親切だ。

「どうだい、スナフキン。釣れるかい?」
「うん、ボチボチだ」

などという会話を一年中している。スナフキンがときに知性的で、ときに世界を受容すべきと大人の立場でムーミンを諭すのは、ザ・ビートルズのFool on the hillと同じで、彼の目は釣り竿の先を見ているのではなく世界が回るのを見つめているからだ。

一方、月を指さすとき、指先ではなくその先にある月の輝きを忘れるな、とイカしたことを言ったのはブルース・リー扮する炎上しているドラゴンさんだ。

私はいまI AMというSNSDも出るSM ENTERTAINMENTのライブ映画(AVEXまつりみたいなもの)を見たくてたまらない。かつて「劇場版ペ・ヨンジュン3D in 東京ドーム 2009」をさんざん笑っていたことを真剣に反省している。

小学校5年生のとき担任の先生に、人を指さしたときに3本の指は自分の方を向いているでしょう、つまり3倍になって返ってくるんですよ、とブルース・リーみたいなことを言われたのを思い出した。40歳過ぎて。SNSDで。

きっとこれから先、私が老人になっても、あと2回はなんらかのアイドル的なものにハマるということを先生は予言していたのだ(ちがいます)。

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肯定論法の奴

伊良湖岬2010

娘が幼稚園で少しきつい言い方をすることがあると婉曲に幼稚園の先生がおたより手帳で伝えてきてくれた。うわー、これ俺の影響じゃね。下の子が2-3歳特有のわがまま期で、さいきんキツめに叱責することが多いのだ。それを真似してるのだ。

とにかく小さい子はすぐ真似する。親の挙動、言動を学習する。ある日、3歳の息子が「あの赤いヤツをとってきて」とか五歳の娘が「あのかっこいいヤツね」とよく言うことに気づいた。やべえよ、俺の影響だよ。ちょっと気になるのでどうやって矯正するか悩む。

私は、ある日思い立って二人に言ってみた。「『ヤツ』という言葉は不愉快な人がいるし、乱暴な言葉なのであまり使わない方がいい言葉だ。お父さんも使ってしまうことがあるけども良くないね」と。

二人は真剣に聞いてる。

「だからね」と私は続ける。

「これから『ヤツ』という言葉は使わないようにしよう。これから『ヤツ』と言ったらヤツポンだ。『ヤツ』と言ったら、おでこを『ヤツぽーん!』と叩いていいことにしよう」「うん、わかった」と姉弟は声をそろえる。いい子たちじゃないか。

「練習してみよう。ほら言ってごらん」「ヤツ」「ヤツぽーん」わはははは「では今度は父ちゃん言うからな」「うん」「ヤツ」「ヤツぽーーーーん」わはははは。けっこう面白い。「ようし、決まりだ。じゃあ今日から『ヤツ』と言ったらヤツポンだぞ」「うん」

で、どうなったかと言うと、その日から子供たちは一度も「ヤツ」と言わなくなった。すげえよ。けどそれじゃゲームがつまんねえよ、とかすっかり手段が目的化してしまった。そう、賢明なる皆さんはお察しかと思いますが、とにかく私がことあるごとに「そこの向こうのヤツとって」「ヤツぽーーん」「洗濯機のしたにあったヤツで」「ヤツぽーーん」「昨日もってきたヤツがさー」「パパヤツぽーーーん」まあ一時間に一回はヤツポンされる羽目になった。なんだ私はとんだヤツポン野郎だったわけだが、さらに可笑しいのはうちの奥さんもちょっとダラけるとヤツポンだったのだ。私より数がすくないもののけっこう使っているのがわかった。

なんだったっけ。

叱責の話だ。

子供のわがままについ強く対応しがちだけども、それはあんまりよくないというのは知っている。最近もちょっと内輪で話題になっていたけども、こういうときは肯定論法で対応すべきだ。肯定論法というのは正しい言葉かわからない。街のファシリテータからサンデルさんまでよく使う、 “Yes and … question?”、「(そうだね|なるほど)、では○○はどうだろうか?」というパターンだ。またこれが難しい。全員に目的意識がある職場ではよほどのことが無い限りこれで議論が転がるけども、ほんの少し前まで人間というより動物、そうアニマルというカテゴリにいた子供たちがそんな簡単にいくとは限らない。

で、先日の朝、妻が作ったおむすびをなかなか食べないと言ってたので、通常であれば「屋久島に行くか?」と脅すところであるが、試しに肯定論法をトライしてみた。なぜ屋久島なのかは話せば長くなるけど、ただいま屋久島は息子の恐怖ワードになっている。いつまでもおむすびについている梅がやだとか言うので(本当は梅干しが好物)さじを投げかけたが、では父ちゃんは今から支度をがんばってするから、君もがんばって食べてみるか?と言ったらうなずいた。うなずいた、今うなずいたよ。よしじゃー競争するぞ、せーの。といって支度して戻ってきたら3つあるミニおむすびのうち2つを食べてた。すげえよ肯定論法。つうかめんどくせえよ子育て。

ただしこれは私だったから、というのがあるみたいだ。奥さんの前ではかなりわがままだそうだから。ちなみに「父ちゃん好き?」と聞くと「好きだけど、怒ってる父ちゃんは大嫌い」と言われた。父親の怖さの演出をどのくらいするか、というのは未だ決まっていない。どうしよう。父ちゃんなんて小心者で根性のないワックだと、化けの皮はどうせ思春期あたりで剥げるだろうけども、それまでな。ホントどのくらいのレベルがいいんだろう。ナチュラルボーン・ヤツポンの苦悩はまだまだ多い。


一年前の私

地震で停電した新幹線
余震で停電した新幹線

余震のためトンネル内で停車、停電した新幹線で(2011年4月)

1年前のことを日記を元にふりかえって記録しておく。2011年3月というと、父と誕生日が同じ坂上二郎が亡くなったことと、水曜どうでしょうの新作の放映が始まったことと、いろんな偶然が重なりHamamatsu.rbの発起人になったことと、ずっとやっている仕事のことなどが私の大きな関心事だった。そんな中、地震が起こった。遠くでなにかとんでもないことが起こっていて、そこで苦しんでいる人がおそらく想像できないほどいるという現実を、じわじわと理解していった恐ろしい一日だった。そしてそれは翌日以降も続いた(その恐怖は当事者に比べればほんと微々たるものだったけども)。

その金曜日は会議など午前からたくさんの予定があって忙しい日だった。14:30ころ地震。WeatherNewsの緊急地震速報で震源が宮城と分かっていたので、最低限の冷静さは保てていた。このビルで働くようになって以来、何回か地震があったがもっとも大きな揺れ。1-2分続いたのだろうか。宮城震源で浜松でこの揺れでは東京あたりは大変ではないかと思った。すぐに震度6-7とわかる。自宅にメイル。子供たちとパンこね台(と我が家で呼んでいる丈夫な場所)に隠れたらしい。若い同僚の妊娠中の奥さんが東京にいたので心配になって聞いたら、連絡はついたとのこと。社内でも出張者の確認などが始まる。

SUT 2011・03・11 15:09:25

SUT 2011/03/11 15:09:25

USBに繋げるワンセグアダプタでテレビを見ると、安藤優子さんがヘルメット被って特番になっていた。フジテレビの近くで火災のニュース。ところが震源付近の情報がなかなか入らない。阪神淡路で神戸の情報が全く入らなかったときを思い出す。仕事をしながらワンセグをつけておく。

そして15:30ころのワンセグTVの津波映像に目を疑う。車がゴロゴロと転がっているのだ。このあたりで尋常な地震ではないことをようやく理解し始める。同僚にワンセグの映像を見せる。HさんやTさんに、阪神淡路のときのようにいまだに沿岸の情報がほとんど入っていないという異常さを伝えたりする。下手すると千人単位かも、などと心底心配になった。そしてその後のあのNHKの空撮。田んぼを信じられないような速度で津波が襲っていく。津波が高くなるよく言われた入り江ではなくて、あのような平地でこの状況ということは、他の沿岸はどうなってるのかと思う。そして。地名にうとい私でも、津波の映像の発信地が広範囲なことがわかってきた。このころからもう仕事が手に付かなくなっていた。しかし予定されていた社内の打ち合わせは普通に行われていた。打ち合わせの最初、同僚に東北の親戚の存在などを聞くがキョトンとしていたくらい、遠く離れたこちらでは映像を見ていないと実感がわかない状況だった。

遅くまで仕事をするつもりだったが、早めに会社を出て帰宅。子供たちはベッドの横に靴を置いて寝ていた。TVは特別編成。ひどい状況がどんどんわかってくる。なかでも見たことも無いような津波の映像に恐怖を覚える。仙台市若林区の警察からの数百人の遺体が見つかったという情報だけが繰り返し伝えられる。そのうちに、そこだけがひどいのではなく、他の所は情報さえあげられない状況だとわかってくる。一方東京ではターミナル駅にたくさんの人が足止めされている。

夜中に原発の電源喪失のニュースが流れる。そこで初めて福島の原発のことを思い出して不安になる(私のあたりの歳の人間は、日本各地の原発の場所をよく知っている人が多い)。

ちなみに、関東で帰宅できなくなっている方たちや、いまだ連絡の取れない被災地など、ノイズになりそうな気がして、この日からtwitterは見ているだけになった。その後も地震と津波の被害や、原発の状況が明らかになるにつれ、とても普段のようなことをつぶやく気になれず、心配して連絡をくれた方が少しいたので生存連絡と、楽しみにしていたイベントに行けなくなった連絡のための2回以外は、しばらく沈黙していた。